日本経済新聞「老いの力十選」

10月 24, 2014

本日、2014年10月24日付『日本経済新聞』朝刊文化欄の東京国立近代美術館主任研究員・保坂健二朗さんによる連載「老いの力十選」に、塔本シスコの「もらったラン、もらったシクラメン」が紹介されました。

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老いの力 十選(5)塔本シスコ「もらったラン、もらったシクラメン」

元気に満ち溢れた絵だ。主題は花。あのゴッホもエネルギーに満ちた花の絵を描いたが、そこには哀しみも滲んでいた。それに対して、この絵は喜びに徹している。そして、そうした絵が、80を超えた人の絵筆から生まれたのだと知る時(絵に年齢が書き込んである)見る者の喜びは倍加する。

塔本が本格的に絵を描き始めたのは50を過ぎてからのことだった。幼少期の記憶に基づく絵もあれば、本作のように日々の喜びから生まれる絵もあった。日本の素朴派(ナイーヴ派)として紹介されることが多いが、少なくともその構図は、複雑かつ巧みである。

たとえば左の黒猫のあたり。尾の左と右とで、背景(あるいは図に対する地)の塗り方が異なっている。現実の再現とは考えられない以上、この在り方は、絵としての効果を狙ってのことだろう。また右下の余白が黒く塗られているあたりは、黒猫の色と共鳴すると同時に、絵全体を引き締める効果をもたらしている。左上の鏡餅は、よく見れば葉の「上」にあって、まるでコラージュのようだ。そうした構図の大胆さを、猫の愛らしい表情が和らげていく。

自分の愛するものや、自分が得た喜びを、他社と分かち合うために、工夫を凝らして描く。きっとそれが塔本シスコの、シンプルな芸術論だった。(1996年、油彩、カンバス、117×91センチ)

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日本経済新聞

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