京都新聞朝刊掲載

11月 8, 2021

2021年10月16日付の京都新聞朝刊美術欄に「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」をご紹介頂きました。ありがとうございます!(弥)

塔本シスコ展

塔本シスコ展

塔本シスコ(1913~2005年)。といってもまだご存じない方が多いかもしれない。熊本県八代市生まれ。生後すぐ養女に出され、養父が米サンフランシスコ移住を夢見ていたことから、シスコと名付けられた。本格的に絵を描き始めるのは夫と死別した後の、53歳の時だった。

世田谷美術館(東京)の「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」は、日本の素朴派と言われる彼女の足跡を見渡す展示である。

会場冒頭で出会うのは着物姿の等身大のシスコ人形(?)。着物を埋め尽くす絵柄は彼女の手描きである。この埋め尽くすこと、キャンバスだけでなく着物をはじめ、空き箱にも瓶にも、しゃもじにも、およそ何にでも描いたことが彼女の「かかずにはいられない!」性向をまずもって表している。加えれば、相当な色彩家であることも分かる。

養家の斜陽で小学校を4年で退学。子守や農作業など家の仕事を手伝った後、酒屋などの家に奉公に。20歳で結婚するが、料理人だった夫は事故で亡くなる。その夫が存命中から庭で育てた動植物を描いていたらしい。

しかし「私も大きな絵ば描きたかった」。画家を目指していた息子が実家に残したキャンバスの絵の具を削って、その上に自分の絵を描き始めた。

自在な境地が花開くのは息子と同居するため、70年に大阪に移ってからだろうか。身近な家族や動植物。モチーフは珍しくないのだが、上下左右どこから見てもいいアングルや、孫と幼いころの自身を同じ画面で遊ばせるなど時空を超えた自由さはまさにナイーブ。

しかも、そのタッチは粗雑ではない。ひと筆ひと筆、何かを確かめるよう丹念に画面を埋めている。描かれるのは楽しかった思い出。過酷だった日々に上書きするように。描くことで生きた、そんな作品群である。

 

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