朝日新聞夕刊掲載

10月 25, 2021

2021年10月19日付朝日新聞夕刊にて「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス かかずにはいられない!人生絵日記」をご紹介頂きました。ありがとうございます!(弥)

塔本シスコ

あふれる、鮮やか、私の人生 塔本シスコ、グランマ・モーゼス
絵を描き始めるのに年齢は無関係――。美術の専門教育を受けることなく、人生の後半になって本格的に制作を始めた日米の女性画家たちの表現は、そう感じさせる。いま、彼女たちの大個展が東京と静岡で開催中だ。巧まざる表現が、見る人の心をつかんでいる。
 ■53歳で絵筆、ただ描きたいように
家族旅行の思い出や結婚式、咲き誇る花や鳥、さらにそれを描く自身の姿が、鮮やかな色彩で伸び伸びと朗らかに、しかしぎっしりと描き込まれている。
東京・世田谷美術館「塔本シスコ展 シスコ・パラダイス」の作品群は、正統的な絵画に見られるような構図や遠近法、モノの大小はお構いなし。描きたいものを描きたいように描いたと思える表現だ。一方で、描写の密度は高く、強烈なエネルギーを放つ。そんな作品が展示室を埋め尽くしているさまは圧巻だ。
塔本シスコは1913年熊本県生まれで、家業が傾いたため小学校を4年で中退。結婚や子育て、夫との死別を経て、絵画制作をしていた長男の姿に接し、53歳で描き始めた。57歳で大阪に転居後も作画を続け、2005年に91歳で亡くなるまで描いた。展覧会は、その全容を紹介している。
橋本善八・同館学芸部長は、「描きたいという衝動がストレートに表れ、常識的な論理を持ち込まない」画風に圧倒され、展覧会の開催を決意したという。
自身が見たもの、体験したことに基づく表現は、楽しそうな人びとの顔が並び、幸福感にあふれる。一般的には写実的ではないが、本人は「私にはこがん見えるったい」と話したという。描く主体と描かれる対象が一体化しているともいえる。
■田園の暮らし、101歳まで グランマ・モーゼス
静岡市美術館で開かれているのは、「グランマ・モーゼス展 素敵な100年人生」。グランマ・モーゼスの愛称で知られるアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860~1961)も、70代から本格的に描き始め、101歳で亡くなるまでに1600点以上を残した。大恐慌や戦時下の人々の心を捉えた、国民的画家だという。
バター作りや村の結婚式といった、田園地帯の暮らしの季節の風景を描く。事物の大小や遠近法にとらわれない細密な描写は塔本シスコに重なるが、描写はかわいらしい。太田紗世・同館学芸員は「日々の暮らしの中のささやかな喜び、幸せな風景を描き、多くの人が懐かしさを抱き、共感を覚えるのでは」とみる。
両展とも、中高年の女性に加え、若い世代や子供連れなど幅広い鑑賞者を呼び込んでいるという。今年はこのほか、丸木スマ(1875~1956)、東勝吉(1908~2007)といった、やはり高齢になってから描き始めた人々の作品紹介が続いた。専門教育を受けていない人による表現「アール・ブリュット」にも注目が集まる。
世田谷美術館の橋本さんは「高齢になると社会から離れがちだが、表現がコミュニケーションのツールになるし、自分の畑を耕し続ける姿が、見る人にインパクトを与えるのでは」と指摘する。静岡市美術館の太田さんも「人生100年時代、『何事を始めるにも遅くはない』と感じさせてくれる」と話す。この流れ、まだまだ続きそうだ。(編集委員・大西若人)

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